診察室の丸い椅子
いつの時代から医者の椅子は立派で、患者の椅子は丸い小さい椅子になったのだろう。医師患者関係がパターナリズム(父権主義)と言われ問題にされたときから、あの椅子は古い権威主義の権化と非難の対象にされた。医師側は「丸い椅子」の最大の理由は「診察しやすくするため」と言い訳してきた。確かに患者さんの背中の呼吸音を聴くには、あの「丸い椅子」は適しているかに思える。しかし、果たしてそうだろうか?
患者さんに「はい、後ろを向いて」と言って背中の呼吸音を聞く仕草は何故か懐かしい。まして胸に左手をあてて、右の中指で打診をする医者なんて今ではまずいまい。それは何故か? 検査、検査で診察することなんか後回し。胸部レントゲンがあれば聴診や打診すら省略してしまうのである。だとしたら、あの「丸い椅子」はもう必要ない小道具ではないか。ある医者は患者と同じようにあの「丸い椅子」に座って診察したとか、これもまた滑稽な風景である。
開業準備でいろんな診察室を見学させていただいた。友人の診察室に招き入れられ、友人は背もたれのある立派な椅子、僕は患者用の「丸い椅子」に座った。
「これは長く座ることができない椅子だなぁ」
つまり、お尻は痛くなる、背もたれがないから疲れやすい、くだけた話なんて無理だ。ふと思った。この椅子は結局のところ「さばくための椅子」ではないか。たくさん患者さんを診なければならないとき、長く居座られたら困る。だからこの居心地の悪い椅子にしたのだと。
実際、僕の診察室は背もたれのあるソファにした。患者さんが話しやすい雰囲気作りに一役かっている。足を組み時には反っくり返りながら、いろんなことを話してくれる。これまでの診察室では話してくれなかった私生活までしゃべる。当然一人あたりの診察時間は長くなる。実はこれが問題だ。今の保険点数制度ではたくさんの患者さんを診察しなければならない。「丸い椅子」はそれなりに意味があることに気付いた。
Column List >>