春の海
今はすっかり死語になってしまったのか、子供の頃、日本海側は裏日本と呼ばれていた。その訳は明らかに日本海は太平洋とは違うからだ。冬の海は恐らく多くの人が知っているように実に暗い、あの鉛のようにたれ込めた暗い雲は人間を暗くしてしまう。あれは「裏」である。今でも山陽に対し山陰である。
しかし、ボクはあの荒れた冬の海が突然静まりかえった春の海が好きだ。一番好きだ。あの凪いだ海―これが実にいい。冬の日本海が荒れれば荒れるほど春の海がいいのだ。宮城道雄の「春の海」という曲があったがあの曲がいつも思い出される。穏やかに行っては来るを繰り返す波、それに連れて動く砂、静かな波打ち際を歩く。
胡桃は海で採れるということをみなさんはご存じだろうか。海辺を歩くことの楽しみの一つに胡桃拾いがある。海が荒れた後に海辺を歩くと胡桃が落ちている。周りの緑色した皮は自然に取れ、茶色の固い殻が顔を出している。なかには腐ったのもあり(こどもの時は「ションベンぐるみ」と呼んでいた)、これはさすがに食べられない。金槌を持って行き、岩の上に置いた胡桃を叩き割る。そうしてうまく割ると形を崩さずに中身を取り出すことができる。この確率を高くするにはただひたすら「拾っては割る」を練習するしかない。ボクはきっと今でも誰よりもこれが上手いと思う。

「悪ガキの英二」、子守をしていた曾祖母がボクを呼んだあだ名である。とにかくワルだったらしい。
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