何故彼は毎年心筋梗塞を繰り返したか
忘れられない患者さんの一人にKTさんがいる。96歳で亡くなられるまで現役のスキーヤーであった。実際、93歳の時に一緒に奥志賀高原の斜面を滑り降りたが、それは見事な滑りであった。
彼が88歳の時に、左前下行枝が原因の急性冠症候群で入院した。この時はバルーンで拡張し成功した。その一年後に、今度は左回旋枝が原因でやはり不安定化しバルーンで拡張し成功。またまた一年後の90歳の時、残った右冠動脈が原因で急性心筋梗塞となり入院、やはりバルーンで拡張し成功。実に毎年、枝を代えてつまりかけたのである。
さすがに三回目の時は愕然とした。
毎年枝を代えてなぜ狭窄が急激に進行するのか? 
年齢だからしょうがないのだろうか?
何のために薬をつかっているのか?

彼には年齢と男であること以外に冠危険因子(高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満など)は全くなかった。コレステロールは200以下だし、悪玉コレステロールも決して多くない。はたと困った。アスピリンは使っていた。あと加えるとしたらスタチン系と呼ばれる高脂血症の薬だ。しかし血清脂質は高くない。
急性心筋梗塞の発症メカニズムの6-70%が、「粥腫破裂」という現象に因ることは少しずつわかってきていた。その予防にプラークの安定化ということが言われ始めていた。その一端を担う薬がスタチン系ということも。
「思い切ってここは使うしかない」
そう考えたボクは彼に説明し了解を得た上で使い始めた。そして90歳の三回目のバルーン治療後は、ピタッと発作は起きなくなった。これがスタチン効果と言えるかどうかはわからないが、実感した症例第一号であった。
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