そんなに食べてないんですけどねぇ
肥満は諸悪の根元といって良い。ボクが医者になりたての70年代には、今ほど肥満体の人はいなかったし、コレステロールが高い人は珍しかった。しかし飽食の時代となった今、糖尿病患者は600万人とも言われている。潜在的糖尿病患者を含めると大人の5人に1人は糖尿病患者とも言われる。
 
肥満は何故悪いか。
糖尿病、高血圧、高脂血症、高尿酸血症、など動脈硬化の危険因子と呼ばれる疾患は、ほとんどが肥満に合併している。「死の四重奏」と言われる所以である。
ある大手の自動車会社の研究責任者であるHさんは、両親ともに心筋梗塞を患い、糖尿病、高血圧、高脂血症の家系でいずれは自分もという恐れがあった。彼はボクの忠告を聞き入れ80kg以上あった体重を徐々に落とした。その結果、血圧は低下し薬の服用はいらなくなり、コレステロールも血糖値も正常化した。今も減量した体重を維持し続けている。
急性心筋梗塞のように一度死の淵に足をかけるとどんな人も病気をまじめにとらえる。そして生活習慣を変えて食事療法に取り組むようになる。ほぼ一年は続く。しかし苦しんだ時期からだんだん離れるとまた元の生活習慣に戻ってしまう。そして再発の道に進むのである。Hさんのように意志の強い人はきわめてまれで、多くの人はこの悪循環を断ち切るにはどうしたらよいかと苦労しているのである。
 
ボクはどちらかというと悲観論者である。もって生まれた遺伝子は変えることができない。肥満気質という表現がある。じつにおおらかで楽天的な性格である。都合の悪いことはすぐ忘れて自分の良いように解釈する。
彼らは言う。「ワタシ、水を飲んでも太るんですよ」、「ワタシ、そんなに食べてないんですけどねぇ」。それはそれは言い訳の連続である。ダイエットとは自分がたくさん食べていることを自覚することから始まるのに、これでは減量を期待するのはまず無理である。
ではどうすれば良いか。栄養学的な問題はもちろんであるが、心療内科的アプローチが必要になると思われる。「やせなきゃダメ」的一方的押しつけ治療では、たとえ一時的効果はあっても長続きはしない。「栄養指導」ではダメで、「栄養相談」でなければならない。たくさんの患者さんが押しかける大病院の外来では、上っ面の管理しかできない。カウンセリング、食事内容の分析、行動変容の指導、など多岐に渡るサポートが必要であり、それぞれの専門家がチームで取り組まなければならない課題である。
しかし現在の診療報酬では、栄養士による外来栄養指導料は130点にしかならない。しかも月一回の算定しかできない。これでは栄養士の給料も出せない。ますます悲観的になるのはやむを得まい。
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