医師不足(4)
なぜ勤務医は開業医にシフトしていくのか?
この疑問に対する答えのキーワードとして「ハードワーク・ローリターン」ということが言われていることは前述した。
 
確かに勤務医はきつい。ついこの前まで循環器救急の一線にいたものとしてよくわかる。あのきつい勤務に耐えられるのはおそらく40代前半までであろう。
7時過ぎには病院に着き、7時半から研修医たちと朝の回診をし、9時から検査や手術に入る。昼飯もそこそこである。夜には検討会やそのあとの回診などをこなす。その合間に学会活動がある。週に一ないし二回は朝から夕方まで時には昼抜きで外来をこなす。そして週日に一回、週末に一回(時には土曜から月曜の朝まで連続で)当直をする。当直中には電話での相談はしょっちゅうだし、緊急の検査手術も頻回である。一睡も出来なくても翌日は休めない。週末もほとんどなんらかの形で患者との絆はきれない。常に呼び出される覚悟は持ってなければならない。
恐らく医師以外の職種でもこの程度の重労働はあろう。みんな若い時はかなり自己犠牲を強いて労働してきたはずだ。
それにしても、ミスなく命を任せ、任せられるにはこの労働環境では辛い。
 
それでも彼らが働き続けるのは自己研鑽できるからであり、キャリアアップにつながると信じているからである。
そしてそれ以上に大前提として、人の命を扱うという使命感と達成感があるからだ。それが故に、勤務医がたとえ「ローリターン」でも仕事して来られた最大の理由だし、そう思いたい。
もし今、勤務医からこの使命感を奪うとしたら虚無感以外にはありえないと思う。一生懸命に文字通り身を賭して命を助けても、報われるどころかミスしたら訴えられてしまうという現状が原因であろう。
 
循環器内科の重要な検査に心臓カテーテル検査というのがある。今ではどこでも安全に受けられるようになったとはいえ、やはり体内に異物を入れる検査である。それなりの合併症は起きうる。検査前には患者とその家族を呼んで検査の内容などを説明し同意を得なければならない。そばで聞いていると、最近の若い医者は医者のボクでさえこんな若造に任せて大丈夫かと思うような説明をする。
なぜあなたにこの検査が必要なのか、それが必要になった理由などをわかりやすく説明するのが「説明と同意」である。ところが、話の90%は「起きうるかも知れない合併症」に話を割いてしまう。「これもありえます」、「これも起きる可能性があります」、などと切り出してしまうのである。これではそんなに恐ろしい検査なら止めますと言われてしまってもやむを得まい。
 
これも萎縮医療が招いた一面である。
Column List >>