お伊勢参り
これまで日本全国47都道府県のうち足を全く踏み入れたことのない県は二つある。それは和歌山と鳥取県である。その他に足は踏み入れたが宿をとらずただ通過しただけの県が三重と島根と佐賀県である。
医者の世界は毎日どこかで何らかの学会や研究会が開催されていると思われるほど「勉強好き」である。
本当のところは学会や勉強会を主催したがる教授を始めとする偉い人が多いという事情がそうさせるような気がするが。
 
勤務医時代は「日本」と名の付く学会に10個以上属していたので、年会費や学会参加費だけでも大変な額であった。病院から全額支給されるわけではない。なんらかの研究費を申請しそこから支出できなければかなりの持ち出しになる。その上、会場は全国に及ぶから交通費や宿泊費もばかにならない。サラリーマンの交際費のようなわけにはいかないのである。
ともかくこうして日本全国の学会場へでかけた。
なかでも札幌、仙台、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡はなんども繰り返しでかけた。お酒が好きなわけでもなくグルメでもないボクは、学会発表をすませ、合間をぬって彼の地の名門ゴルフ場を訪ね歩くのが唯一の楽しみだった。
ところが開業すると平日に学会で全国へ出かけることはなかなか難しい。この三年、めったに遠出することはなくなった。
今年の正月休暇、なぜが急に思い立って伊勢神宮を訪れてみたいと思った。まだ泊まったことのない三重県と和歌山県を旅してみようと思い立ったのである。
新幹線で名古屋へ、近鉄特急で伊勢市へ、駅近くのビジネスホテルに泊まって外宮と内宮にお参りした。正月だと言うのに思ったよりも参拝客は少なく、駅前の商店街も閑散としていた。お店に入って聞けば駅前にあったショッピングセンターが閉鎖したせいもあるらしい。あまり混雑がすきではないボクにとっては好都合ではある。
小雨が振る中を参道の砂利道を踏みしめ、千古の歴史を肌に感じながら歩いた。神の域に通ずるとされる宇治橋、真っ直ぐ伸びた杉の木立、重々しい正宮をみあげる石段。法隆寺が古さの永続を誇る建築ならば、正宮は2000年前と変わらぬ姿をみせるために20年に一度の式年遷宮を繰り返してきたという違いに驚きを感じた。
それにしても周囲を塀で囲み中を覗き見ることすらできない。携帯で正宮をバックに写真を撮ろうとしていた親子が怖い顔をしたお巡りさんに怒られていた。神々しさを保つ故だろうが、この距離はなんなのだろう。
ボクには神秘さは感じても日本人のルーツを感じさせるような霊性はさっぱり感じることはなく、凡人であることを再認識したお伊勢参りの旅であった。
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